去年末、冷蔵庫を買い替えた。
古いものが故障してしまったので新調する、といった、何かを買い替えるにあたっての動機としては取り立てて珍しいケースでなく、むしろ妥当なセオリー過ぎる理由である。
「だから何?」と一蹴されてしまえばそれで終わりな話なのだが、この“古いもの”というのが15年以上使った代物で、さらにその年式が1993年製だったとしたら、少しは興味を持ってもらえるのではないだろうか。
遡ること私が20歳だった頃。一人暮らしを始めた。
初めに住んだところは管理費込みで4万円の1Rアパート。ほとんどお金も無い状態だったので、その時点で冷蔵庫など買えるわけがなかった。
必然的に“ミニ冷蔵庫”なるものが設置されている物件を選んだ。
ミニ冷蔵庫。お情け程度の収納スペースが確保された冷蔵機能の付いた箱だ。冷凍機能は無い。いや、あるにはあるが、ほんの片隅で製氷ができるのみで、大抵の冷凍食品の保存は効かない。従って、冷凍機能は無いに等しい。
多少不便ではあるものの、最低限の用は足せるので、一人暮らし開始当初はこれで何とかやりくりしていた。
しかし、生活にも慣れてくると、だんだんと欲が出てくる。
一年目、二年目まではよかった。しかし三年目ともなると、ついにこんな贅沢がふと頭を過る。
「アイスを食べたい」
否、これまでだって食べてはいた。ただ、自宅での冷凍保存が効かない状況下では、買ったとしてもその場ですぐ食べるよりほかない。
「冷凍庫にストックしておいて、食べたい時に食べたい」
無性にそんなことを思ってしまう。
ミニ冷蔵庫生活を経験した人なら、この欲求を理解してもらえるのではないか。
しばらく後、アルバイトで貯めたお金で冷蔵庫、冷凍機能のちゃんと付いた冷蔵庫を買おうと決心した。
新品を買う経済的余裕など無い。リサイクルショップで中古のものを買った。
その時で既に製造から15年経過していた型落ち品。5,800円。メーカーは現パナソニックの子会社であるサンヨー。
配送料さえも惜しんで、徒歩15分の坂道をお店の台車を借りて部屋まで運んだ。
それこそが冒頭で言及した“古い冷蔵庫”である。
別に愛着があったわけでもない。取り立てて優れた機能なんてあるはずもない。
ここまで使い続けたのは、単に壊れなかったからだ。ずっと動いていた。私の生活態様も変わることなく、これで事足りていた。それに尽きる。
まさか使用年数が15年にも及ぶとは。
その間、幾度となくアイスを食べた。その場で慌てて食べなければならないことなく、食べたい時に、食べたいだけ。
そのことの感謝を思うと、別に愛着などあったわけではない、というのに、なんだか感傷的になったりしてしまう。
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