BOOK レビュー 「正欲」(朝井リョウ 著)

『正欲』

ちょっと前に読んだ本。
本屋大賞ノミネートだったり、去年には実写映画化もされたりの話題作で、今さら持ち出すこともないのだろうけど、自分の好みに合ったのでレコメンドしておく。

朝井リョウさんの著書は、実はそれほど読んでいない。
まず真っ先に浮かぶのがデビュー作である『桐島、部活やめるってよ』なのだが、刊行当初はそのタイトルの軽率な響き(の印象を受けてしまっていた。偏見甚だしい、スミマセン)に忌避感を覚えてしまって読めていなかった。
一読もせず、勝手に自分の中の「どうせおもしろくない小説」枠に入れており、そのまま長期に渡って素通りしてしまっていたのだ。

なんともったいないことをしていたのか、と、今となっては思う。
2、3年前かな、初めて作品を読んでみて、その骨子の強固な物語に惹き込まれた。
以降、少しずつではあるが、世に出ている著書にふれていっている、という次第。

数作しか読んでいない私が、朝井リョウさんの作品の良さの何たるかを語ろうとは思わないけれど、社会生活の中で感じる違和感を、確かな読み応えと共に小説というフィルターを通してわかりやすく想起させてくれるものだ、ということは述べておきたい。
作品によって様変わりするのかも知れないが、少なくとも私が今のところ読み終えた作品は、上記の美点を共通して感じている。

本作『正欲』もまさにそう。
ここ数年感じていた、“多様性”や“共存”“公平”などといった言葉に対する気色悪さ、うまく言葉に言い表せない気色悪さを、明瞭で整然とした文章で表してくれていて「そうそう、言いたかったのはそれ」と、甚く腑に落ちた。

おそらく著者自身の主張もあるのだろうが、作品内で答えを言い切ることはなく、そこにおしつけがましさは存在しない。
問題提起をしつつも、論文然とせず、あくまでも物語として、小説という読み物に内容を落とし込んでいる点が、またこの作品の良さである、と思う。

映画はどうなのだろう。
果たしてあれだけの内容を130分に収め切れているのか。
機会があれば観てよう、と思いつつ、それよりも今は未読の著書を読みたいな、と優先順位を付けている今日この頃だ。




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■今日の一曲
Elliott Smith「Ballad Of Big Nothing」

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