BOOK レビュー 「灰色の虹」(貫井徳郎 著)



最近の読書は、新しいものに手を出す、というよりも、昔読んだ作品を読み返す、という行為に没頭している。

読書に割ける時間が極端に減ったのがその要因だ。
稀少なその時間を失敗で終わりたくないという考えから自然冒険をすることがなくなり、確実にハズレないものを、と所望するあまり、過去に読んでおもしろかったはずのものを無難に選択してしまう。

今回取り上げる『灰色の虹』もその一冊。
貫井徳郎さん。
好きな作家で、ほぼ全作読んでいる。
(言い切ってしまうと取りこぼしがあった時こわいので、“ほぼ”としておきます。)

数多くある作品の中でも殊に良かったと記憶していたのがこの『灰色の虹』。
8、9年ぶりに再読したのだけど、やはり良かった!
つくづく思う。最近、これほどまでに充実した読後感を得られる新作に出会っていない。
個人の好みの問題も多分にあるんだと思うけど、どうなんだろう、話題性ばかりに走り過ぎて中身が伴っていないものが増えた気が、する、んだよな。
気が、する。個人的に。

冤罪を扱った物語。
主人公に待ち受ける運命の過酷さに読むのがつらくもなるけれど、先を知らずして終われない気持ちが勝り頁を捲る手が止まらない。
文庫にして700頁超という長さから敬遠していしまう人もいるのかも知れないけど、ちょっとでも気になったのなら読んでみて損はない、と思います。

ストーリー自体も良いけれど、それを展開していく時系列の運び、章立ての妙がより一層おもしろさを引き立てている。
タイトル“灰色の虹”が意味するところもなんとなく察せられるものの、その光景が描かれた箇所に行き着いた時にはやりきれなさに息が詰まった。
いわゆる“感動”とは違った深い感慨が、読後しばらく思考を支配する。



貫井徳郎さんといえば“イヤミス”の名手としても有名だろうか。
ラストに待ち受ける意外な結末、といった作風もひとつの売りとしてあるでしょう。
けど、この手の作家の著書につける惹句として「どんでん返し」「予測不能の結末」「ラスト〇〇頁、あなたはうんぬん」みたいな芸のないことを謳うのはやめてほしい。

読み方を限定してしまうし、私など貫井氏で初めて読んだ作品が『慟哭』なのだが、あまりにもそういうことが謳われ過ぎていて途中で結末がわかってしまった、という残念な読書体験をしている。
フラットな状態で読んでいたならもっと楽しめていたんだろうな、と思うと、ちょっと腹立たしささえおぼえてしまう。
そういう体験をした人は、きっと自分だけではないはず。
しらけちゃうよねえ。


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