BOOK レビュー 「卍」「蓼食う虫」(谷崎潤一郎 著)

新作に手を伸ばすよりも、昔読んだ本を改めて読み返そうということの方が多いこの一年。
最近ではひと昔前の小説を読み漁っている。




谷崎潤一郎は特に好きな小説家。
扱っている題材はさることながら、文章の端々に垣間見える変態性が読んでいてクセになる。


初めて「刺青」を読んで以降、続く「痴人の愛」でドハマりし、「春琴抄」「お艶殺し」など作品を読み耽ったものだ。20代前半の頃の話。


誰もが大なり小なり内に秘めているアブノーマルな部分を巧みに刺激をしてくる、魔力とでもいおうか、物語の中に蠱惑的な魅力が滲んでいる。
対外的に恥部と見做され、忌避してしまいたくなる部分を惜しげもなく文章にして発表してしまうその明け透けさ、もっと言ってしまえばアホさ(※貶すつもりはなく、大いに賛辞)に、深い敬服の念を禁じ得ない。


谷崎を取り沙汰す際、どうしても「エロ」の部分へ大いに焦点が当てられてしまいがちに感じるけれど、それだけではなんともったいない、彼の本質は、美しいものを敏感に察知し捉えて離さない、類稀なる美的感覚にあると思うのだ。
「美に耽る」、だからこそ「耽美」。
昔どこかの書店で「耽美コーナー」なる区画があり、覗いてみたら中身がただの下品なエロ小説コーナーだったことがあり辟易したものだが、「耽美」とは本来「美」の総たるものに没頭することにおいて使われるべきであって、「エロ」はその中の一部に過ぎない、と私は思っている。
「谷崎」=「耽美派」=「エロい」という直結はあまりに短絡的であり、また残念でならない連想だ。


『卍』、『蓼食う虫』は、ただの「エロ」でとどまらない、その片鱗がよく見える作品ではないだろうか。
いやいや、私も全作品を読んでいるわけではないので、もっともっと、良い作品はあるんだろうな。
未読の作品、是非読んでみたいと思うし、最近では、『細雪』もまた再読したい、などとも思っている。


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■今日の一曲
Skinshape「Left with a Gun」

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