Say Sue Me『Where We Were Together』を聴く

Say Sue Me、韓国出身のロックバンド。
このバンドの存在を知ることになったきっかけはラジオ。
何処の局だったかさえも記憶に残っていないが、なんとなく点けていたラジオから流れてきた「So Tender」。 
歌声、メロディが綺麗で印象に残った。



その後、アルバム『The Last Thing Left』、『We've Sobered Up』をサブスクで試聴、改めてその良さを思い知る。
“気になる”存在から、“好き”なバンドへと変わった。



好きなバンドであるからには、作品は実物を手元に持っておきたい、ということで、今年春に未聴だった『Where We Were Together』を購入。
リリース時期でいうと上記2作のちょうど狭間の作品にあたるのだろうか、帯には2018年とクレジットされている。
購入するアルバムをこれにしたのに大した理由は無く、単に「未聴だった」というだけなのだが、とても良かった。
一度聴いてみてわかる、これは「アタリ」だと。
二回、三回と聴く。どんどん味わい深くなる。
繰り返し聴いても飽くことのない、トータル・アルバム然とした奥行きのある佇まいを感じる作品だ。





一曲、一曲抜き取っても各曲自立した個性があるし、全11曲、通してひとつの流れができているようで、“アルバム”の醍醐味を大いに味わえる。これは音楽を聴くならシングルよりもアルバム、という自分にとってはとても嬉しいこと。



穏やかな陽気の中を歩いていくようなミディアム曲「Let It Begin」で幕を開け、控えめながらも切実な祈りを感じる「Coming To The End」へと収束していく流れは圧巻。
どの曲もメロディが立っていながらも、ただのポップソングに収まらないのは後ろで鳴っている楽器たちの為せる業か。時に唄に寄り添い、時に力強く楽曲をリードする音像は、やっぱりバンドっていいよね、と思わずにはいられない。
そしてなんといっても、ボーカルがいい。
と、いざ聴いてみれば「曲」「音」「唄」…音楽の好き・嫌いの判断基準のほとんどを満たしているバンドなのであった。
今からでも遅くはない。注目して活動を追っていこうと思う。





MVなど観てみると、ちょっとしたおフザケを交えた作風のものがあったりしておもしろい。
クールな曲調、コミカルな挙動、意図的であろうチープさ、がバランスよく融合していて好ましい温度感だ。



気になる点があるとすれば、日本国内流通用に付された帯だろうか。
解説文にはこのように書かれている。

《60年代のサーフ・サウンドと、90年代のインディ・ロックのポップセンスが融合したスタイル》

コマーシャルの役割を果たす“売り文句”の部分としては少々もったいない気がする。
私のように音楽ジャンルに詳しくない者にとっては「60年代」などと言われたら「え、古くさいの!?」と敬遠の気持ちの方がまず勝ってしまうし、「サーフ・ロック」と謳われてもいまいちピンとこない。「…え、うーん、ビーチ・ボーイズとか、そんな感じ?」てなもの。
また「インディ・ロック」についても索漠としていて掴みどころがない印象で、好きな人こそそういうの詳しく知ってるんだろうけど「じゃあ何、そういうニッチな層に向けられた音楽なのか? 知らない私はダメ?」と、素気無く門前払いを食らったような寂しい気持ちになってしまう。
なんだか、自ら裾野を狭くしてしまっているように感じるのだ。

そうした“スタイル”の部分が大きな売りとなるバンドならまだしも、私が聴いて感じるこのバンドの美点はもっと違ったところにあって、たとえば耳馴染みの良いメロディであったりだとか、たとえば朴訥で柔らかなボーカルであったりだとか、ロックファンのみならず多くのリスナーに聴き入れられるだろう、大衆性という武器を備えていると思うのだ。
ヘンに小難しい言葉を使ってカッコつけるよりも「いい歌」「きれいなメロディ」とでも言っておいた方がよほど聴き手の興味を惹けるんじゃないだろうか。

本件に限らず、音楽ってやたらとジャンルをカテゴライズし過ぎるきらいにあると思う。
もちろん時としてそれが有意義な場合もあるのだけど、私が見受けるそのほとんどが、語り手の知識のひけらかしのようで鼻に付くものだ。
はっきり言って、興醒め。
メディアから高い評価? どうだっていいぜ。
「Say Sue Me、いいバンド、一度聴いてみよう!」それでいいと思う。



なお、Say Sue Meは今年になってEPとして『Time Is Not Yours』(先行シングル「Vacation (feat. Kim Hanjoo)」含む5曲入り)を発表している。
こちらも併せて聴いておきたい。


このバンドは1作に必ずインスト曲が収録されているのも特徴かな。
私自身、音楽制作の際にインストは取り入れたいと思っているものなので、大いに参考になるんです、というのはあまりにも蛇足すぎる余談……。

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